子どもの権利条例を広め深めるまち(泉南市視察報告)
日野市は2008年に「日野市子ども条例」ができましたが、検証の仕組みである条例委員会も、救済の仕組みの子どもオンブズパーソン制度も、制定後16年経過した今年からようやく始動したところです。
泉南市は2012年に「泉南市子どもの権利に関する条例」が制定され、条例を活かし施策を展開している先進市と言われています。具体的に何に取り組んできたか、日野市に活かせることを学びたいと、大阪泉南市を視察しました。(8月5日)
条例ができるまで
2002年、9園の公立幼稚園を7園に統合する計画を進めていたところ、幼児の数の問題で論じることは限界があり、市民からの理解が得られなかったといいます。そのような折に行政研修で子どもの権利に詳しい森田明美さんに出会い、子どもの権利条例を子ども施策の柱にしている自治体があることを知ったそうです。理念なく計画を進めていたことに気がつき、計画を一旦白紙撤回したという話を、元園長で現子ども政策課長から伺いました。
この話は9月議会で、日野市立第四幼稚園閉園に関する議案で委員会での反対討論にも引用させていただきましたが、この子どもの権利への「気づき」が、閉園計画を見直す判断につながったことは素晴らしいと感じています。
その後市の全体像がみえないと子ども施策に関する計画は作れないと2つの委員会を設置し、子どもへのアンケート調査をもとに話し合い、2009年には子どもの権利を具現化するため条例策定準備委員会が設置され、2010年に条例制定を公約に掲げた市長が当選したというのが大まかな流れです。
実践を確かめる検証と公表のしくみ
子どもの権利条例委員会とあわせ、広く市民から意見や提案を募るために市民モニター制度があるのが特徴です。モニターは子ども、一般市民各8名程度、地域・性別・年齢を考慮し公募して市長が委嘱、委員会と連携して検証活動を行います。結果は市長に報告、市長は市民に公表します。その内容を子どもの権利に関する推進本部(部長級)が検討し、子ども施策に活かすという仕組みです。これまでの報告はこちらをご参照ください。
条例策定時から関り続けている条例委員からもお話を伺いました。長期的に検証し続けることを可能とするためには、条例委員の再任について考え方を整理する必要があると思いました。(泉南市は任期3年、再任可/日野市は任期2年、一期に限り再認可)
また条例委員は18歳以上としていますが(日野市は年齢制限の要件はない)、別途市民モニター制度(子ども・おとな)で子どもの意見を聴く仕組みは参考になります。条例委員はモニター会議に出席し、子どもの権利について理解を深める一助も担っているそうです。
また、「子どもの権利に関する条例ハンドブック」には、条例作成時の議論が示されており、理解を深めるのに有効だと感じました。日野市の子ども条例について改正を求める声もあるようですが、その議論のまえにどのような議論を経ていまの形になったのか、検証が必要だと思っています。
自分たちで考え行動するように
泉南市では、子どもの権利について全学年で段階的に学習します。そして条例の「子どもの意見表明と参加」の具体的な施策として「せんなん子ども会議」を設置しています。
対象は小学校4年生から18歳、毎年20名から30名ほどの参加があり、月一回開催、ルールは子どもが決めます。予算がつき、おやつタイムもあるそうです。
「~してほしい」から「何ができる」へ。例えば「公園をきれいにしようプロジェクト」では、空き缶を集めて換金し壁に絵を描くなど、自分たちで考え、取り組みをします。それ以外にも児童会、委員会活動を通じて、またGoogleフォームを活用して校長先生に直接相談できる「校長そうだん」もあります。
ただ校長先生のお話によると、教職員にとって子どもは「指導」の対象でもあることから、意見表明と指導の狭間の見極めが難しいというのが課題のようで、まず教職員の共通認識をはかることが大切だと語られました。教職員になる過程で、子どもの権利について必修としてほしいものです。
また教職員はもちろん、大人が子どもの権利を理解することが非常に大切です。泉南市ではあらゆる機会をとらえ、条例の普及につとめています。「こうですよ」と押し付けるのではない「気づき」を得る深い議論を心掛けているように受け止めました。
泉南市では一昨年、中学生が自死するという痛ましい事件があったそうです。子どもの権利については知っていたようだけれども、救済につながらなかったことが残念でならないと条例委員の方は肩を落とされていました。どんなに真摯に取り組んでも行き届かない無念さ、悲しさが伝わってきました。これでいいという到達点はないからこそ、検証を続けていかねばならないと考えます。
日野市には泉南市にはない子どもオンブズパーソンの仕組みができました。しかし、活用されなければ意味がありません。まずは周知を徹底し、つながってほしいと強く思います。