エネルギー基本計画は「脱原発・脱石炭」のバックキャストで
電力や資源について政府の中長期的な方針である、第6次「エネルギー基本計画」の素案が示されました。(7月21日)
そこで、レポート「日本政府の2030年温室効果ガス46%削減目標は脱原発と脱石炭で十分実現可能だ」を出された「未来のためのエネルギー転換研究グループ」メンバーの明日香壽川さん(東北大教員)を講師としたオンライン市民学習会に参加しました。(7月22日)
新「エネルギー基本計画」の全体像は下記の通りです。(計画より抜粋)
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※S+3Eとは/安全性の「S」と安定供給、経済性、環境の3つの「E」
また、計画では2030年度の発電比率目標として、再生可能エネルギーを36~38%、原子力を20~22%、LNGを20%、石炭を19%等としています。
これまでの計画はエネルギーミックスありきの計画でしたが、今回は「2050年ゼロに向けた46%削減という目標」ありきの計画となっているのが、これまでと大きく違っています。しかし46%削減(2013年度比)では全然足りない、と明日香さんは指摘します。世界的にみた公平性から言えば、先進国の日本は120%くらい削減しないと合わないそうです。
どのシナリオを選ぶか
明日香さんはまず、国の方針とは別に、2030年までに「脱原発と脱石炭」このバックキャスト(未来を起点として今何をすべきかを考える)でシナリオを描いています。できるかできないかの議論ではなく、「たくさんあるシナリオからどれを選択するか」であり、マイナスの影響を受けるひと(抵抗勢力)にはケア(新たな雇用など)するなど、対策を講じることが大切です。しかもこのシナリオは、経済性も高いのです。
太陽光発電費、原子力を逆転
原発推進派は、「原発vs.温暖化」「原発vs.再エネ」「環境vs.経済」の2項対立のフレーミングを示しがちですが、それに惑わされてはいけません。2030年時点で、太陽光発電は原発よりコスト単価が安くなる試算が経済産業省より示されています。「統合コスト」という概念で再エネは増えるほど高くなるという説がありますが、IEA(国際エネルギー機関)は2050年ネットゼロ(太陽光と風力で発電量の7割)でも発電コスト単価は上がらないと示しています。
島国の日本と同様の孤立系統のアイルランドでは2030年のVRE(変動電源=太陽光と風力)比率を70%、スペインでは74%という高い目標を掲げています。日本の目標値は低いと言わざると得ません。
仕組みをどう作るか
だからといって何もメガソーラーをつくりましょうというのではなく、住宅の屋根やソーラーシェアリング(農地における営農と太陽光発電の両立)で十分であり、例えば全住宅の10%(2019年では約6%)、農地・耕作放棄地の0.8%という目標値を明日香さんは示します。そのためには新築住宅はZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を義務化するなどの対策が有効ですが、日本では業界への配慮から「義務化」が進まないのが現状です。ガソリン車の販売禁止の早期実現や、産業部門での省エネ化についても同じことが言えます。
しかしそれはもはや、温暖化対策というより、企業戦略の問題だと明日香さんは指摘します。
私たちが何を選ぶか
「原発ゼロ・石炭火力ゼロでも電気代が高くならず停電にもならず雇用も経済もマイナス影響を受けない、そしてカーボンニュートラルが実現できる」ということを、多くの人に納得してもらいたいと明日香さん。何を実現するためのどういったバックキャストが必要なのか、私たち一人ひとりが真剣に考えていく必要があります。
エネルギー基本計画は8月中旬ごろパブリックコメントが始まる予定ですので、こちらで紹介したレポート等もご参照いただき、ともに取り組んでいきましょう。
ちなみに日野市でも、今年度新たな環境基本計画を策定予定ですので、合わせてご注目ください。つくるプロセスも大切と考え、「市民会議」の実現を求めています。実現の際には、ぜひご参加を♪
【参考サイト】
★写真でご紹介した「レポート 2030:グリーン・リカバリーと 2050 年カーボン・ニュートラルを実現する 2030 年までのロードマップ」はこちらからダウンロードできます。
★一人ひとりが使う電気(電力会社)を選ぶことも大切です。こちらのサイト(パワーシフト)をご参照ください。