ありのままの自分も 相手も大切に(性的マイノリティと憲法 講演会より)

日野市の憲法記念日行事講演会「一人ひとりがかけがえのない存在~性的マイノリティと憲法~」に参加しました。(7月31日)
講師は弁護士の山下敏雅さん。これまで子どもの人権やセクシャルをはじめとするあらゆるマイノリティの立場の方々の人権を守る活動をされていらしており、現在は国立市の男女平等推進市民委員会委員も務められています。
山下さんが関わられてきた判例をもとに、人権とは何か、非常に示唆に富む講演内容でした。私が特に印象に残ったことを中心に、なおこ目線で皆さんと共有したいと思います。

R3憲法記念日行事チラシのサムネイル

 

LGBTという言葉はだいぶ浸透してきましたが、そこには収まりきらない多様な性があります。それだと欧州のことを「英仏独伊」というようなものだという例えには、思わず膝を打ちました。また、あっちとこっちの世界、自分には関係ないわという感じになってしまいます。
現在は、SOGI(性的指向・性自認)という捉え方をするのが主流となりつつあります。それは私たち全員に当てはまり、みんなが当事者です。誰を好きになるか、自分の性は何だと自覚するか、それは生まれながらに持っているものです。

性に関することは、生活の隅々まで、そして生き方に関わってきます。現在日本においてはT(トランスジェンダー)に関する法はありますが、LGB(同性・両性愛者)に関してはありません。私たち全員が当事者と考えれば、それっておかしいよねということが自ずとわかります。
パートナーが異性なら何の問題もない手続きが、同性というだけで途方もなく困難となってしまう事例(遺産相続、精子提供による出産など)にぶつかりながら、山下さんは判例を積み上げてこられました。
また、性教育の大切さにも言及されました。性教育=SEXの話と矮小化されがちですが、本来の性教育は、自分と相手の心と体を大切にすることです。海外では5歳から、包括的な性教育が行われており、日本の後進性を指摘されました。

人権ってなんだろう

LGBTの子ども達は、親からも否定され、排除され、理解されない苦しみを味わう子が多いといいます。山下さんは、そんな子どもからの相談にのったこともあるそうです。山下さんと出会えたことは、その子が自分らしく生きていくうえで、どんなにか大きな助けとなったことと思います。改めて、子どもに寄り添い、子どもの思いを一番大切にする、山下さんのような子ども人権擁護員の存在が必要だと感じました。

山下さんは、学校などで子ども達に人権について話す時、このように伝えるそうです。

大切な存在として扱われること、尊重されること。モノや人形や奴隷のように扱われないこと。国籍や障害の有無、見た目、性別など関係なく、どんな人でも大切にされなければならない。誰もひとりぼっちにさせない、必ず居場所があること。安心して、幸せに暮らせること。

全ての子ども達、いえ大人達にも聞いてほしい話です。

 

家族ってなんだろう

憲法第24条には

「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」

とあります。作られた当時、同性婚を想定していたとは考えられませんが、禁じているわけでもありません。例えば第15条には「成年者による普通選挙の保障」とありますが、現在すでに18歳で投票できるように、憲法を変えなくても、法で変えられることはあります。むしろ同性婚の禁止は第14条「すべての国民は法の下に平等であって(中略)差別されない」に反すると指摘されました。
実際、山下さんも弁護団に加わっている「結婚の自由をすべての人に訴訟」において、今年の3月札幌地裁では、同性婚を認めないのは違憲であるという判決がでています。

配布された日本国憲法の冊子

また、女性から男性になり、結婚して夫になったけれど、第三者から精子提供を受けて授かった子どもの、法律上父になることはできなかった「GID・法律上も父になりたい裁判」では、最高裁で逆転勝訴しています。(2013年) ※裁判の詳細はこちらをご参照ください。

山下さんは日々、実の親から虐待を受けている子ども達と接しています。だからこそ、こんなに愛情豊かに育てられている子どもが、家族として認められないのはおかしいと思われていたそうです。本当にそうですね。
家族って何でしょう。夫婦って、パートナーって何でしょう。日野市にも(仮称)「パートナーシップ条例」制定に向けて準備が進められていますが、私たち一人ひとりがこの問いに向き合うことが大切だと感じました。

 

みんなで考えよう(会場の声から)

講演後、若い方からの質問が相次いだことに、私は感銘を受けました。

Q:学校の規則はどこまで個人の尊重をしばっていいの?
山下さん:規則は上からのもので破るとペナルティを課せられると誤解されがちだけれど、本来は「理由のあるもの」「みんなで決めていくもの」「必要に応じて変えていくもの」。でも子どもたちがなかなか声をあげないのは、周りに「おかしい」ことに「おかしい!」と声をあげる大人がいないからではないか。声をあげると当事者間でもバッシングされるのが現状。学校の先生も、人権意識の土台がしっかりしていないと感じる。

Q:LGBTに対する理解が進む反面、差別発言などネガティブな面も気になる。今後はどのような展開に?
山下さん:子どもも女性も同じ。子どもに権利とは何だとか、女性運動にもバックラッシュがあった。でもそういった揺り戻しを経て「おかしいじゃないか」と声があがるようになってきた。(市民が)正しい判断をするためにも、行政の啓発や表明は大切だ。

山下さんは、常に目の前の困ったひとをどうしたら救えるかを考え取り組まれてきた、その積み重ねが社会を変えてきました。
私たちは無意識の小さな差別(マイクロアグレッション)をしてしまうことがあります。でも逆に小さな応援をすることはできる、弁護士でなくても人権は守れるんだよと山下さん。

参加者に配布されたピンバッジ。これをつけることも小さな応援のひとつ

権利の獲得には、それまでの長い道のりがあります。法ができるまで、そしてできてからも続きますが、やはり法ができること、自治体では条例ができることの意義は大きいのです。
日野市の(仮称)「パートナーシップ条例」、私たちの条例として、ともに取り組んでいきましょう。

 

【関連記事】
よろしければ関連する過去の記事もご一読ください。
子どもの人権を守るために
性教育は人権教育!
誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けて