権利の放棄について(北川原公園予定地ごみ搬入路整備に関する住民訴訟)
北川原公園予定地ごみ搬入路における裁判の結果を受け、大坪市長個人への約2億5千万円を請求する権利を放棄する「権利の放棄」について審議する臨時会が招集されました(10月14日)。「債権放棄等審査特別委員会」を設置し審議を行なった結果、委員会では賛成多数、最終日には全議員が賛成し、可決しました。(10月28日)
以下、これまでの経緯を含めご報告します。長いですが、どうか最後までお読みいただければと思います。
1.北川原公園とは
2.単独処理から広域化へ
3.ごみ搬入路の位置づけ
4.住民訴訟と裁判の判決
5.権利の放棄の議案
6.日野ネットの考え
7.日野市と日野市議会が変わるために
8.審議を終えて
1.北川原公園とは
北川原公園をご存じですか。多摩モノレール万願寺駅に近いエリアから、可燃ごみ処理施設(国分寺市・小金井市・日野市の三市で共同運営)・浅川水再生センター(東京都管轄の汚水処理施設)にかけての一帯です。
森田元市長の時代(1973-1997)、ふたつのいわゆる嫌悪施設を受け入れてくださっている地元住民の方々に対する感謝の気持ちを込め、公園整備が計画に位置付けられました。浅川水再生センター施設の屋上は、グランドとして利用されています。将来センターが拡張される場合に備えて確保されている予定地は、施設ができたあとにその屋上部が公園として整備される予定です。(一部は広場として整備されています。)日野バイパス北側は、ごみ搬入路と併せて整備され、現在公園として利用されています。
2.単独処理から広域化へ
可燃ごみは日野市クリーンセンターで処理されていましたが、老朽化に伴い建て替える必要がありました。建て替えの際には、日野高校等の前を通る浅川ルート近隣住民の方々より、搬入ルートは変更して欲しいという強い要望ありました。
しかし2012年に国分寺市、小金井市より可燃ごみ共同処理の打診を受け、馬場前市長(1997-2013)は広域化を決定、バトンを受け継いだ大坪市長(2013-)は2014年に三市で覚書を交わしました。市民への説明や同意が不十分なままの決定に、大きな反対運動が起きました。(広域化概要についてはこちら)
3.ごみ搬入路の位置づけ
浅川ルート以外では、いくつかの候補があったものの、いずれも住民からの反対や、住宅街を通らねばならないなどの課題がありました。結果的に日野バイパス石田大橋すぐ脇の、現在の公園内ルートがよいのではと検討されていましたが、広域化されたことでその必要性はますます高まりました。
位置づけには3つの選択肢がありました。
①道路を都市計画公園区域から除外する方法(公園区域除外案)
②ごみ搬入専用路とする(専用路案)
③公園と道路の効用を兼ねる施設(兼用工作物案)
道路と同じ面積の公園の代替地を確保できないことから①をあきらめ、助言を求めた都や国の見解のずれから②と③で二転三転した後、最終的には日野市が③と決めました。
4.住民訴訟と裁判の判決
住民訴訟は、地方公共団体の財務運営の適正を確保し、住民の利益を保護することを目的とした制度です。
いきなり訴訟は起こせず、まず住民は監査委員に対し、住民監査請求を行います。その結果に不服がある場合、訴訟となります。監査の範囲はあくまで財務会計なので、非財務会計については監査の対象とはなりません。
結果を不服とし、北川原公園予定地にごみ搬入路整備をしたことは都市計画法上違法であり、それに伴う契約・支出をした大坪市長に損害賠償を求める住民訴訟となりました。
裁判では、都市計画法、都市公園法をどう解釈するか、自治体の裁量権はどこまで許容されるのかなどが主な焦点となりました。日野市としては、30年というのは暫定期間であり、100年の計といわれる都市計画を変更する必要はないという主張でした。
しかし一審(地裁)、二審(高裁)ともに、30年間は暫定期間とは認められず、利用状況から兼用工作物とみなすことはできず、都市計画を変更しないままにごみ搬入路をつくったことは違法であり、違法な搬入路をつくる契約をし、支出した費用約2億5千万円は日野市にとって損害となるから、日野市は市長である大坪冬彦氏個人に対し、その額を損害賠償請求しなさいというものでした。日野市は最高裁に上告していましたが棄却、二審の高裁判決が確定となりました。
5.権利の放棄の議案
国家賠償法では「職務上の権限の範囲において、著しく合理性を欠き、看過しがたい瑕疵があるといい得る場合」は免責されますが、住民訴訟では軽過失であっても個人が多額の損害賠償請求をされます。これについては職員等の業務の委縮につながる等、かねてより議論がありました。
一方で、議会には地方自治法に基づき、その債権を放棄する議決をすることができます。これについても、住民訴訟を反故にするものとして、議論があります。権利放棄の議決をした議会が、住民から訴えられるということも実際にありました。
このような議論を踏まえ、2017年に地方自治法が一部改正され、権利の放棄議決をするにあたっては、監査の意見をきくこと、また自治体で一部免責条例を制定することができるようになりました。(日野市はこの条例をまだつくっていません。)
日野市から「権利の放棄について」という議案を審議するための臨時会が招集されました。放棄の理由として「本件契約締結については、あくまで日野市クリーンセンターへの廃棄物搬入ルートの沿線住民の安全安心の確保と住環境の保全を図るために行ったものであり、相手方(大坪冬彦)に不法な利益を図る目的はなく、かつ現に不法な利益は得ていないため」とあります。
議会はこれを受け、議会としての裁量権を逸脱しないよう、慎重に慎重を重ねた議論が求められました。なお監査委員からは、裁量権を逸脱しないよう、また地方自治法に基づき「善意でかつ重大な過失があるか否か」を考慮し、客観的かつ合理的で厳正な判断をされることを求める旨意見がありました。(監査委員の意見はこちら)
6.日野ネットの考え
日野ネットでは、会員や市民の声をききながら、話し合いを重ねてきました。関連議案に賛成をしてきた立場として、追及や調査が不足していたことを深く反省しています。議会にも責任があり、市長ひとりに多額の損害賠償を求めるわけにはいかないものの、長としての責任はとるべきと考えました。
市長が不当に利益を得ていた事実がないことは監査委員に確認したこと、また成果物の通行路は三市のごみ搬入に欠かせない搬入路として活用されており、長年の住民要望に応えた側面もあることなどを総合的にとらえ、悪質なものと判断する材料は見当たらないことから、今回の事案が「善意でかつ重大な過失にはあたらない」と判断しました。また原告団の代表の方々とお話した際に、合意書にある内容こそが住民訴訟の目的であるとお聞きし、権利の放棄が住民訴訟の目的を反故にするにあたらないと考えました。
しかしながら、委員会の時点では責任の取り方が明確に提示されていなかったことから、市民への説明がつかないと委員会では態度保留としました。日野ネットとしては弁護士費用相当という案を示しましたが、日野ネットを含む何人かの議員からの質問には答えず、最後の議員の質問に「年額相当」と答えたことに対しては議会からも抗議の声があがり、市長が謝罪するという一幕もありました。全議員に対して表明する形が望ましいのは言うまでもありません。このような対応は謹んでいただきたいと思います。
臨時会最終日に、市長は年額相当、副市長は30%カットを半年という内容の給与に関する条例改正が追加議案として上程され、全議員賛成で可決されました。先にこの議案を審議することを臨時会で求めていましたが、議会運営の慣例ということで叶いませんでした。(詳細はこちら)
全額放棄した後に責任の取り方を示すのも、はじめからその分を差し引いた額を放棄するのも(一部放棄)、結果的には同じかもしれません。ただ、市民の受け止め方に違いがあるのではと感じます。先に述べましたが、一部免責条例がまだないというのが大きな要素となるのであれば、せめて権利の放棄と責任の取り方の議案はセットで提示されたほうが、市民の理解を得やすかったのではと思います。
7.日野市と日野市議会が変わるために
日野市は都市計画を変更して搬入路となる通行路を公園区域から除外する案を一度は検討しながらも、それをせずに済む道を選びました。判決文で指摘されるように「住民への利害調整が困難であるという政治的配慮から、必要な手続きを回避するため、取止めた」と認定されて仕方ないことです。
委員会では、都市計画審議会に相談すべきであったことを指摘すると同時に、リーガルチェックが果たせるよう監査体制の充実と内部統制制度の構築を早期に実現することを求めました。
担当部間の連携や認識、意識の共有も十分であったとは言えません。何より、切羽詰まったスケジュールでのすすめ方に問題があります。前市政より引き継がれた状況というのもあるかと思いますが、多くの選択肢があるうちから、市民参画で合意形成を得ながら、丁寧に進めていく必要があります。その市民参画のあり方については、言葉だけでなく仕組みとしての担保も必要です。日野ネットが求めていた「自治基本条例」の制定を自ら進んで行う市に変わってほしいものです。
議案や計画等について、議会への説明は全く不十分、皆無と言っていいほどです。住民代表である議員に対しては、公平に説明を尽くすこと、これは当然のことではないかと思います。改めていただきたいです。
議会には議決責任があります。それを果たしていくために、議会は変わらなければなりません。臨時会最終日「権利の放棄に伴う議会責任に関する緊急決議」を全議員賛同のもと示しました。今後はそれを具現化すべく、議会改革をすすめるための特別委員会を設置し、「議会基本条例」という形で市民の皆さまにお示しできるよう努めていきます。
8.審議を終えて
大変重い議案でした。二度とこのような審議はしないですむようにしなければなりません。この度の判決は日野市にとっては厳しいものでしたが、地方自治、二元代表制の意義について考える契機として、市政、議会改革をすすめていくターニングポイントにしていかねばとも思います。それを果たしていくことこそが、原告の方々が求めていたことであり、市民に対する責任であると考えます。
日野ネットは自治体間の協力は必要であると広域化には賛成しましたが、市民不在の進め方には異を唱えてきました。ただし「賛成」と「反対」の二択しかありませんから、この選択に厳しいお声をいただいたのも事実です。それだけに、順番は逆になりましたが、これから30年後のあり方も含め、違法性の解消について市民参画で丁寧にすすめていくことが、日野市の未来にとって、とても大切だと感じています。
合意形成とは、皆が少しづつ妥協すること、納得が不満を上回る解をみつけることだといいます(今井昭著 地方自治講義より)。大切なのは対話を重ね、少しづつ歩み寄り、お互いを受け入れていくことではないでしょうか。特にNIMBY(ニンビー)といわれる、いわゆる嫌悪施設の建設をめぐっては、時間をかけてより丁寧に進める必要があります。
市民の皆さま一人ひとりに自分ごととしてとらえていただけるよう、これからも市民・議会・行政をつなぐネットワーカーとしての役割を、精一杯果たしていきたいと思います。
【関連リンク】
北川原公園予定地ごみ搬入路関連|日野市公式ホームページ (hino.lg.jp)
【関連記事】
前市政から受け継いできた問題に現市政はどう対応していくのか(12月議会より) | 白井なおこ (seikatsusha.me)
日本初のトンネルコンポスト方式 視察に行ってきました! | 白井なおこ (seikatsusha.me)