人間と性を学ぶ(セミナー報告)
性教協(“人間と性”教育研究会)全国夏期セミナー長野大会in松本に参加しました。毎年各地を巡回し、今年で45回目!かくも長きに渡り、取り組みを続けてこられた研究会に敬意を表します。10年に一度の学習指導要領改訂において、包括的性教育の議論がないもどかしさを抱えながら、改めて学びたいとはじめて参加しました(8月1日・2日)。
今年は特に参加者が多いようでオンラインと合わせて600名近くとのこと。座学やワークショップなど実に盛りだくさんのプログラムでした。ごく一部ですが、報告します。
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●基調講演より
性教協幹事の艮(うしとら)さんの基調講演は、本質的なことがぎゅっと詰まったものでした。性について学ぶことは、生きること、人と人との関係性を築くこと、個人の尊厳を大切にしながら、ともに社会をつくっていくことを学ぶこと。包括的性教育は「個人の尊厳を保障するための教育」「権利の主体を育てる教育」であり、それは発達段階に応じたカリキュラムに立脚したものであることが求められる。「個人の尊厳」という人権の最も基本となる考え方を子どもたちとともに確かめ、社会のなかで育んでいく、その積み重ねこそが、誰もが尊厳をもって生きられる社会の実現につながるというものでした。
その中で「権利に基づくアプローチ(RBA:Rights-Based Approach)」という考え方が示されました。「子どもに何を教えるか」から「子どもの権利をどのように保障するか」という問いへと視点を転換する考え方です。包括的性教育は教育現場においてRBAを求めていく、その大きな柱でもあるのだと思いました。

●長野・松本の取り組み
開会にあたっては臥雲松本市長が挨拶され、シンポジウムでは松本市住民自治局平和人権共生課長も登壇されました。
長野県では「人権教育」と「性教育」を柱にした「長野県子どもを性被害から守るための条例」が2016年に制定されていて、条例を活かしながら性教育を確実に広げています。もともと、性暴力は処罰ではなく性教育によって防げるという理念のもと、青少年育成条例を持たない立場を取ってきたといいますから、その人権を軸とした考え方に感銘を受けました。
8年前の長野大会の後、性教協長野サークルが包括的性教育推進部局を立ち上げ、りんごっこ保健室キャラバン隊が誕生。松本市では2022年より小中学生を対象に性の多様性講座が始まり、キャラバン隊が担当5年目にあたるとのこと。その取り組みは大いに参考にしたいと思いました。
●理論講座より
このセミナーに参加する少し前に、包括的性教育に関する院内集会があり、そこで発言された渡辺大輔さん(埼玉大学教員)のお話に感銘を受けたので、この講座を楽しみにしていました。「人権的アプローチ」(先にあったRBA)を深堀り、かつわかりやすくお話くださいました。「~してはダメ」という禁止だと、「~させてしまった自分」を責めること(自己責任)につながってしまう。だから「自分の決める権利を侵害された」(権利保障)と捉えることができるようになることが大切で、相談にもつながるという話は大いに納得しました。
また、国が進める「生命の安全教育」は前者の禁止アプローチであること、「プレコンセプション・ケア」(妊娠前ケア)は自分が決める権利の保障とはなっていないこと、また包括的性教育の提供が前提であるべきにも関わらずそれを受け入れずに推し進める矛盾についても、理解を深めました。断片的ではない、人権的アプローチとしてのカリキュラムが必要です。

●実践的な取り組み事例より
2日目は分科会で、午前は、性と労働について考える分科会に参加しました。山本佳代子さん(元中学校社会科教員)が中学3年生に行った人権学習で、仕事と家庭に関わる男女平等の課題について取り上げた際に、生徒から寄せられた107件の意見をもとにグループで話し合いました。
設問は「夫は仕事、妻は家庭」の考え方をどう思うか、「仕事と家庭に関わる平等」の課題を解決する方法、についてです。
セレクトされたいくつかの意見だけでなく、100を超える意見にじっくりと目を通すと、「家庭」といったときに子育てがベースに含まれているとか、家父長的な価値観というのは家庭で受け継がれることもあれば反面教師にもなるのだとか、様々感じることがあり、それを共有しました。授業でも、色々な見方を共有すること、自分ごととして考えさせる環境の保障が大切だそうです。社会科で取り組む包括的性教育なのだと思いました。
午後は地域で包括的性教育を広めるために、大人が学ぶための工夫を実践している長野県飯綱町の「いいづな保健室」の取り組みを学びました。知ることで「なーんだ、そうだったのか!」と思える学びを届けようというものです。専門職ではない5人の仲間がメンバーですが、性教協長野サークルのメンバー、りんごっこ保健室キャラバン隊のメンバーもいるそうです。
主体は週2日の相談活動や中学校への出前保健室を行っているとこのと。活動を通して自分たちが大きく変容していったと語られました。包括的性教育とは「変化をもたらすこと」も定義にあるように、個人とコミュニティのエンパワーメント、公正で思いやりのある社会の構築に貢献する、その実践なのだと受け止めました。
グループに分かれて話し合った中では、包括的性教育の学びの場に男性の参加者が少ないが、男性が参加したくなるようなテーマは何だろうという問いもありました。自分にも関係があると感じてもらうこと、例えば更年期などはどうかと話し合いました。包括的性教育は教育であり「学習のプロセス」であるといいますから、「腑に落ちる」積み重ねが大切なのだと考えます。それが「なーんだ、そうだったのか!」につながるのだと思いました。
閉会式では、包括的性教育は子どもにわからせるのではなく、揺らぐことができる力を身に着けさせるものだという話に、それが生きる力につながると思いました。
日本においては、包括的性教育がナショナル・ミニマムとして保障されていないため、地域格差があります。だからこそ、生活者ネットワークとしても公教育としての包括的性教育の導入を求め続けています。それをさらに大きなうねりにしていくため、このセミナーで得たものを活かしていきます。

1日目の会場Mウイング内に「ジェンダー平等センター」がありました。広いキッズスペースや交流コーナー、いいですね!
【関連報告】
包括的性教育を公教育で実践し、子どもの学ぶ権利の保障を求める要請 | 白井なおこ

