学校で包括的性教育を進めていくために
どれだけ自分のカラダのこと、性のこと、知っていますか? よく知っている、と答える人は、少ないのではないでしょうか。
性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないためにも、望まない妊娠を防ぐためにも、そしてジェンダー平等の実現のためにも、包括的性教育を進めていくことが重要であるという認識は、以前に比べてある程度は広まってきたように感じています。しかしながら、肝心な教育現場ではどうでしょうか。性教育は必要だと思うが扱いにくい、そんな雰囲気があるように受け止めています。
そのような状況を変えたい、必要とされる性教育の教材をつくりたいと、全国の3万人の中学生(全体の1%)に包括的性教育の教材「コロカラBOOK」(ココロとカラダの大切にしかた入門)を届けるプロジェクトが立ち上がりました。クラウドファンディングで目標額600万円を上回る約700万円が集まったので、約3万5千人の中学生に届けることができます。
とても意義深い取り組みであると感じ、教材を制作した正進社の長谷川さんと浜元さんにお話を伺いました。(4月18日@世田谷・生活者ネットワーク事務所)
そもそも包括的性教育って?
クラウドファンディングの呼びかけではこのように説明されています。
包括的性教育の目的は、学習者のウェルビーイング(幸福)の実現です。そのために、からだの変化や生殖のしくみだけでなく、からだの権利・ジェンダー・性の多様性・コミュニケーション・性暴力など、幅広い分野の知識を扱います。さらに、それらの知識に基づいてよりよい選択をしたり、自他ともに尊重される関係性を築いたりするための態度やスキルの獲得を目指します。『コロカラBOOK』は、包括的性教育の国際的な指標として知られる『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(ユネスコ)を参照して作られています。
これまで私も議会で包括的性教育に関する質問を重ねてきました。教育委員会からの答弁は「学習指導要領に基づき行っています」「生命(いのち)の安全教育に取り組んでいます」というものです。また弁護士によるデートDV講座は全中学校で実施していますが、東京都が実施する産婦人科医による性教育の授業を実施したのは、開始された2020年から2023年の4年間で1校のみです。
生命(いのち)の安全教育は冒頭にあげた「性暴力の加害者、被害者、傍観者にならない」ための大切な授業ですが、包括的性教育の一部です。包括的性教育では生徒自身が情報を得た上で、自らの意志で選択できるようになることを目指している、と長谷川さんが語られた言葉が印象に残りました。
包括的性教育実施の後押しに
この「コロカラBOOK」は、「自分のからだを大切にする」「多様な生き方を尊重しあう」「他者とのかかわりの中で生きる」の3つのテーマ・7つのトピックスを3年かけて学ぶ構成です。
かつ冊子の前半は授業で使うパート、後半は一人で読むパートという工夫があります。授業の学びを自分でもう一度考える時間があるというのは、とてもよいと思います。
解説動画もついていて、1トピックスは30分あれば学べます。これなら教員が「うまく説明できるかな」と不安に思うことなく取り組めます。
それでも「取り組みたくても時間がない」という教員の声にも応えて、関連の深い既存の教科の時間に進められるよう対照表もついています。学校教材専門社ならではの配慮です。
性教育のパイオニアや専門家、教員の協力を得ながら制作しており、QAやエッセイなども充実しています。「あ、これについてもちゃんと書いてある!」と膝を打ちたくなるような内容です。いわゆる歯止め規定(妊娠の過程は取り扱わないものとする)をクリアしつつ、豊かな、そして必要とされる情報・学びを届けようという熱意が伝わってきます。
紙面の一部はこちらからご覧いただけますので、ご覧になってみてください。
「コロカラBOOK」は、要望が寄せられた全国116校に無償で送ることが決まっています。キーとなるのは、熱心な養護教諭、女性の校長先生のようです。ちなみに文京区では10ある公立校で7つの中学校全学年に配布し、授業を行うといいます。
このような包括的性教育が学べる教材が増え、
しかし同時に、学習指導要領の抜本的な見直しこそが必要と考えます。改定は10年に一度、次の改定は2027年です。議論が深まるよう、一緒に声をあげていきましょう!
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