愛光女子学園を視察して
トー横で未成年が検挙、そういうニュースを耳にするたび、その後子どもたちはどうなるのだろう、必要な支援につながるだろうかと心配になります。
そのような折、狛江にある愛光女子学園を視察する機会を得ました。(1月10日)
愛光女子学園について
東京都狛江市にあります。関東・甲信越及び静岡の家庭裁判所で保護処分として少年院送致の決定を受けた12歳(小学生は除く)以上23歳未満の女子の矯正教育及び社会復帰支援を行う国の施設です。(欠点を直す、正常な状態に正すという「矯正」という言葉には抵抗がありますが、ここでは説明のまま記載します。)
女子は男子の10分の1ほどで、このような女子少年院は全国で9つありますが、ここは日本で一番小さな都市型の施設だということです。
施設内は明るい色調で、定員100名のところ現在は26名が在園しています。期間は5ケ月~11ケ月ほど、2年を最長に柔軟に(出た後の受け入れ先の調整が整うまで)対応しているとのことです。なお教育施設なので、在園したことは前科とはなりません。
教官をはじめ支える職員は41名、そのうち男性は4人のみ、常時20~25名くらいの体制だそうです。施設を囲むように建てられた宿舎もあり、そこに暮らしている職員もいます。在園者の多くは対人関係の構築が困難である中、どのような働きかけがよいのか、専門性が問われる仕事だと感じました。
なお、施設の一部は狛江市の福祉避難所になっています。
学びについて
全部で7つの矯正教育課程があり、個の特性に応じた生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導が行われています。義務教育課程は中学校の学習指導要領に準拠した教科指導が行われ、単位を取得すると卒業式もあります。普段はジャージですが、式の時などは制服を着用するそうです。
幅広いテーマを扱う「アイスタ」という授業もあり、広い視野を持つことや、自分の意見を述べる機会となっているというのが印象に残りました。ここではスマホは禁止。はじめて本を読む機会を得た子も多いようです。これまであまり出会わなかったであろうこれらの機会を通じて、学ぶ楽しさにつながればいいなと思いました。
気になる包括的性教育については、様々な指導の中で扱っていると質疑において回答がありました。ここはぜひ力を入れてほしいところです。
また、就労支援ではケース会議を設け、飲食業や介護など協力雇用主とのマッチングに力をいれているとのことでした。資格取得よりも、まずはあいさつや連絡など社会的なマナーを身に着けさせるということです。
生活について
部屋は4人部屋と個室があります。様々な理由で4人部屋が難しい場合、個室となるようです。男子の場合は部屋の外から鍵をかけるようですが、ここでは部屋に鍵はかけません。
会話は必要(新入生に何か教えるなど)以外は部屋でも私語は禁止。息苦しくないかと感じてしまいがちですが、「それが助かった」という声もあるようです。聞かれたくないこと、話たくないこともあるのだと思いました。
食事のご飯は白米と麦のバランスが8:2、1日2400キロカロリーとのことで、写真で見る限りけっこうボリュームがありました。食べきれない子もいるようで、毎回残すのも心苦しいだろうから、食べきれるよう調整ができればいいのになと思いました。ただ三度三度きちんと食事をするという習慣がなかった子にとっては、食と向き合うきっかけになるのではと思います。
背景にあるもの
概して自己イメージが悪く、逃避や依存で問題を回避しがち、虐待等の被害経験によるトラウマなど、精神的に不安定な傾向にあると施設長より話がありました。実際、令和5年度の新収容者21名の約半数が虐待経験があるといいますが、言わない子もいるので、これがすべてではないだろうとのことです。また約半数の保護者はひとり親(実母43% 実父10%)であり、実父母がいる家庭は約3分の1と、男子に比べて女子は割合が低いそうです。
義父との関係が悪いケースもあり、愛着障がいの傾向も多く見受けられるという話もありました。改めて家庭環境は子どもに大きな影響を及ぼす、特に女子にその傾向が強いようだと感じました。
主な非行は窃盗、詐欺、このふたつで約半数、傷害が約14%、覚せい剤、ぐ犯がそれぞれ9.5%と続きます。ぐ犯とは、将来、刑罰法令に触れる行為をするおそれを差し、調べると家出や暴走族、援助交際や風俗店勤務なども含まれるようです。
くりかえさないために
刑法犯検挙人員に占める再犯者の人員の比率(再犯者率)は令和5年47%と検挙者のうち約半数が再犯者というのが実態です。国では2016年に「再犯の防止等の推進に関する法律」を施行、それを受け東京都では2019年に、日野市では2021年に「再犯防止推進計画」が策定されています。
都議会では総務委員会での報告質疑の際、東京・生活者ネットワークの都議が、居住支援、就労支援、就学支援の充実に加え、地域で孤立しないためのネットワークづくりと見える化を求めています。日野市では計画策定の際にパブリックコメントを募集、私は性教育の充実を求める意見を提出し、計画に反映されています。
個別計画を策定している市区町村は全国で2割に満たないので、計画策定自体は評価しますが、実際にそれが息の長い福祉的支援につながっているか、検証しなくてはと思いました。
視察を終えて
ここに来るのは、ここに来るまで支援につながらなかった少女たちです。どんな支援があるのかも、本人にはわからないと思います。だからこそ、当たり前に支援できる社会に変わっていく必要があります。
女性支援新法ができましたが、居場所や相談体制など支援の充実、また保護者も含めた支援につながるよう、まさに、地域で孤立しないためのネットワークづくりと見える化を今こそ進めていかねばなりません。
昨年「プリズン・サークル」という映画を観ました。対話による更生プログラムを導入した刑務所を追ったドキュメンタリーです。映画の中で、入所した若い男性が「このような機会に出会っていれば、違う人生があったと思う」といったことを語っていたのが印象に残っています。登場人物の多くは、暴力のある家庭やいじめなど、つらい子ども時代を過ごしています。それを客観的に認識できる機会がなかったのだと考えます。
愛光女子学園で過ごした少女たちが、ここでの日々がその後の人生でどのような影響があるのか、実際のところはわかりません。難しい面もあるのかもしれませんが、後追い調査、またそれを現行の矯正教育にフィードバックしていく仕組みも必要なのではと感じました。
視察前日に法務省矯正局総務課長さんが、矯正の現状と課題についてオンラインで事前レクを行ってくださいました。犯罪の動向や再犯防止の必要性に対する理解を深めることができ、有難かったです。知ってもらいたいという熱意が伝わりました。末筆となりましたが、この場を借りて御礼申し上げます。
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