誰のため?何のため?当事者を置き去りにしたLGBT法から考える

6月は世界各国でLGBTQの権利を啓発する活動やイベントが実施される「プライド月間」でした。1969年にNYで起きた大きな抵抗運動「ストーンウォール事件」(※注1)が由来であるといわれています。

6月21日に閉会した第211通常国会では、LGBT理解増進に関する法律が成立しました。東京・生活者ネットワークが超党派案での成立を望むステートメントを出したのち、日本維新の会等が第三の案を提出、結果的にそれを受け入れた与党修正案が可決されるという展開となりました。修正の経緯がわかるよう、条文を一覧にまとめました。

LGBT法修正経緯のサムネイル

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修正案に「崖から突き落とされた」

とにかく法律ができたのだから一歩前進、あるいは理念だから大切なのは施策、といった意見もあります。しかし修正のプロセスがあまりに乱暴、拙速であり、とにかく作ることが目的化し、議論は深まるどころか空転、超党派案より内容が後退しました。社会的マイノリティであるLGBTQの人権擁護より、マジョリティ(あるいは一部の保守勢力)への配慮が優先され、解消すべき差別が温存されるばかりか、増長される懸念さえあります。問題点については、ぜひこちらの記事をご参照ください。
LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「最終盤で崖から突き落とされた。先進的な取り組みを委縮させていくものだ」と批判(緊急記者会見6月9日)、深い失望をあらわにしています。同会の声明についてはこちらを参照ください。

「理解よりむしろ差別が増進される」と修正案に対し、当事者団体等が強い抗議の声をあげた(6月12日)

同会見において、以前日野市の講演会でも話を伺った寺原真希子弁護士(「結婚の自由をすべてのひとに」訴訟東京弁護団共同代表)は、「文言上は中立的に見えても、法律は審議の過程を踏まえて解釈される」とし、修正における後退の過程が悪用される懸念を示しています。

また、当事者でもある尾辻加奈子前衆院議員は「理解増進が政治の役割か」「与えてあげるマインド」「保障すべきは周囲の理解ではなく、人権」と厳しく指摘、また差別禁止の明記を拒む理由として、同性婚への道筋をつけてしまうことへの恐れではないかと推察しています(朝日新聞6月1日)。いま全国各地の地方裁判所では、同性同士が結婚できないのは「違憲」「違憲状態」という判決が次々にでていますね。

自治体への影響は

日野市では、パートナーシップ制度が今年の4月から始まりました。もともと市民の方からの請願がきっかけです。その請願では、制度の存在が「ありのままでいていい」というメッセージを与えるとし、自治体が制度をつくることの意義を訴えていました。
請願は採択され、その後日野市男女平等基本条例、「すべての人の性別等が尊重され多様な生き方を認め合う条例」(通称:ジェンダー平等条例)に改正しました。性自認という言葉を定義し、使っています。丁寧に、長い時間をかけて検討や啓発に取り組んできたものです。先んじて作られた自治体の条例や制度が、この法律により逆に規制をうけたり、委縮するようでは本末転倒です。

いわゆるトイレ問題

市民の方より、男性がトランスジェンダー女性のフリをして女性トイレに入りやすくなり、トイレの犯罪が増えるのではないかという懸念の声をいただきました。不安なお気持ちは受け止めますが、それは犯罪の問題として、人権の問題とは別の文脈で解決していくべきものと考えます。
これまでも市内公共施設で盗撮等の犯罪行為は起きており、未然防止の対策強化を市には求めています。また同国会では性犯罪の刑法改正も成立しましたが、厳しく罰せられるべきは「犯罪者」です。
一方、経産省トイレ制限をめぐる判決(※注2)は7月11日に予定されており、その判断に注目しています。

ジェンダーによる不平等を解消していくことこそ

先日、ジェンダーギャップ指数2023が発表されました。日本は146ケ国中の125位、過去最低を更新です。「ジェンダー」の不平等は解決すべき重要課題ではないという表れです。それはこの法案の修正過程にも表れており、ジェンダー平等へのバックラッシュ(組織的な反発運動)、その根深さを感じ取ります。
国会の圧倒的多数を占めるのは男性議員です。だからこそ、政治の場から変えていかねばなりません。クオータ制などの制度導入だけでなく、有権者一人ひとりの選択の積み重ねが大切と考えます。

これからも皆さんとともに考え続け、誰もが自分が自分であることを誇りに生き、認め合うジェンダー平等社会の実現を目指していきたいと思います。

山内れい子元都議(右)と共に

※注1:当時は同性愛者たちのたまり場を警察が強制捜査することがあり、マンハッタンのゲイバー「ストーンウォール・イン」も強制捜査を受けた。しかし客たちが反発、5日間の暴動へと拡大した。この事件が同性愛者の自尊心と権利向上運動を生み出したといわれている。
※注2:戸籍上は男性だが女性として生活する経済産業省に勤務する職員が、女性用トイレの利用を制限しないよう国に求めた訴訟。一審は使用制限は違法判決、二審は逆転敗訴となっている。

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